駿河国三保の松原に住む白龍という漁師が仲間と釣りに出た折、松の枝に掛かった美しい衣を見つけます。家宝にするため持ち帰ろうとすると、女性が現れて声をかけ、その羽衣を返して欲しいと頼みます。白龍は、女性が天人であり、その衣が天の羽衣である事を聞くと、国の宝としようと返そうとしません。しかし、「それがないと、天に帰れない。」と悲しむ天女の姿に心を動かされ、羽衣を返すかわりに天女の舞楽を見せて欲しいと頼みます。
天女は快諾し、羽衣を着て舞を舞います。月宮殿の有り様や三保の松原の春の景色を讃えながら、空高く上り、やがて富士の彼方に霞にまぎれて消えていきます。
素材
・丹後国風土記
・その他各地に伝わる天人女房譚
解説
天人女房譚とは、異郷である天上から降りてきた女性と婚姻するという昔話の総称であり「羽衣伝説」等の名前で各地方に存在する昔話です。
実は、この話には複数のバリエーションが存在します。天女との婚姻の後、「別離型」「再会型」「再開難題型」等、話の展開が変わり、中には生まれた子が地方有力豪族等の家系始祖伝承に繋がる形式もあるようです。
広く知られているパターンは、天女に恋をした男が羽衣を隠すことで、天に帰れなくなった天女は男と結婚して子供を生んだりしますが、天女が羽衣を見つけてしまい天に帰るという流れでしょう。
能においては、複雑なストーリーにするのではなく、漁師がすんなり羽衣を返し、天人が舞う舞を見せるという部分に主眼が置かれているように感じます。
【参考】
羽衣伝説 → Wikipedia
制作ノート
男が魅せられたのは、天女という属性なのか女性そのものなのか。という疑問が制作の出発点になりました。冷静に考えれば、枝にかかっている羽衣を見て、いきなりその持ち主の個性に恋をするわけがないだろうと...(笑)
今回のストーリーにおいては、天女=シンガーという属性に魅せられた男が、女性の個性の一端である生活している姿を否定し、結果、天女の機能の一端であるストール=羽衣を奪って逃げる。という図式を思い立ちました。
実は、当初の構想では、死に際を覚った「私」が孫に経緯を話して、自分の死後にストールを焼いてもらうことをお願いするって話だったんですが、ちょっとバカ過ぎるかと思って現在の形に落ち着いた次第です。
参考文献
・観世流百番集
・『能楽手帖
・『神道事典
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